(1)若手技術者育成の悩み
中堅ゼネコンA社の建築部長から次のような相談を受けた。「どうも最近、うちの作業所長で施工図の書けない者が多くて困るんです。」との悩みである。
その企業ではまともに施工図の書ける人は現在のところ半分にも満たないとのことである(主には20〜30代の社員)。
施工図の書けない作業所長が人の書いた施工図を見て、おさまりなどの図面の良否をはたして判断できるのかきわめて疑問に残る。
翌日大手ゼネコンB社で建築本部の教育担当課長と面談した際に上記のお話をしたところ、「うちも同じですよ」という答えが返ってきた。
「えっ!・・・」と私は言葉を失ってしまった。業界のトップクラスのゼネコンでもそうなのである。
その後はもはや業界全体の問題になろうとしている。
中堅ゼネコンC社のD所長にこの件を尋ねると次のような話をしてくれた。 「私が20代の頃ですが、1日の作業や業務が終わって帰り支度をしていると急に所長に呼び止められ、『おい、明日の朝までに○○の施工図を書いてこい』と言われました。
『今日は友達と約束が・・・』とか言ってもまったく聞き入れてもらえず、仕方なく徹夜で施工図を書くはめになりました。
翌朝、所長にできあがった図面を提出すると『何だ、この図面は!』と怒鳴られて修正箇所を赤鉛筆で記入されて、『明日の朝までに施工図を書き直してこい』と言われました。
『せっかく苦労して書いた図面なのに・・・』と私も腹が立ちましたが、よくよく所長が赤鉛筆を引いたところを見てみると、確かに納得のいくところばかりでした。
その後は悔しさも手伝って『所長に1回で認められる図面を書いてやる』という気持ちで図面作成に取り組みました。それが今となっては自分の技術屋としての財産になっています。あの時の所長には大変感謝しています。」
D所長のような経験は以前はどこの建設会社の作業所長でも似たような経験をしていたはずである。一体いつの頃から作業所長は施工図が書けなくなってしまったのか。
どうやらバブル期を境に施工図の書けない作業所長が増えてしまったようである。
バブル期に膨れ上がった仕事量をこなすために建設各社は規模の大小を問わず従来の施工図作成業務を現場作業所長の手から施工図作成業者や協力会社にシフトさせていった。また、CADなどのOA化の普及もそれらに拍車をかけてしまった。
バブルが過ぎ、各社ともコストダウンの要請など1人ひとりの所長の能力が問われる時代になった。
しかしながら、所長の能力はむしろ年々低下してきている。前述の施工図の問題はほんの一例に過ぎない。
「実行予算が作れない、守れない」、「施工は協力会社まかせで自分から指示・命令できない」「そもそも現場に対する執着心や問題意識が低い」等々、中堅・中小の建設会社からはこのような嘆きの声が聞こえてくる。
若い作業所長たちが悪いのだろうか。否、会社として若手を育てる体制がとれていないところに問題があると思われる。
中堅・中小建設業において人材育成がうまくいっていない企業に共通して見られる問題点と課題は下記の通りである。
- 教育活動が場当り的であり、作業所長として何をどの程度修得したらよいかの基準がない(期待水準の欠如)。
- 若手社員に対し十分な教育なしに現場を持たせ、どのように施工管理を行ったらよいのかがわからないまま仕事をしている(教育体系・教育機会の欠如)。
- ベテランや先輩社員が「先輩の技術を盗め!見て覚えろ!」式の態度であったり、自分の経験や技術レベルで若手社員に接するため、若手がついてこられない(指導能力・技術の欠如)
以上のような問題点と課題が見受けられる。
では、人材育成のための課題解決をどのようにはかっていけばよいのだろうか。次号で述べてみたい。
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