前回は事前施工検討で起こりうる要素(リスク)を想定して、場面に適した対処方法を訓練すべきであると述べた。今回はその訓練として最も必要な対人能力、とりわけ折衝やトラブル対応について解説してみよう。

1.変更提案の折衝方法
コストダウンにつながる変更案を受け入れてもらうには、先方のニーズをよく聞き出すことが重要だ。そのためにはまず、工事着工前に現場条件を把握しておくこと。施主(発注者)が不安に思っていることを提案テーマとすること。比較案を作成して十分検討したことを示すこと。そしてこれらをわかりやすく見せるための説明力を身につけることである。そのためのポイントは次の項目である。
(1)相手のニーズから決め手になるポイントを見つけること。
(2)自分の意図している提案内容をタイミングよく十分伝えること。
(3)相手をその気にさせるテクニック(心理、技法、ツールなど)を使いこなすこと。
ではこれらを例題に当てはめてみよう。
例題 : |
田んぼの造成工事における背丈ほどの現場打ち擁壁コンクリート工事(当初設計)である。 この擁壁を現場打ちからプレキャスト二次製品に変更(経済的になるため)しようと提案している場面だ。 |
(1)「コンクリートの擁壁に決めた何か特別な理由でもおありですか?」とタイミングよく質問することである。うまい質問は相手の意図を把握するチャンスである。まずいパターンはいきなり、「今は工場で作ったコンクリートが一般的ですよ。表面の仕上がりがきれいですから」と自分の言いたいことを一方的に話してしまうことである。
(2)現場打ちと二次製品の施工方法の違い、施主にとっての長所と注意点の説明などをわかりやすく話す。そのとき相手の理解力を確認しながら写真や略図を活用することだ。説明が専門用語の羅列では相手は興味を失くしてしまう。
(3)のテクニックは見せ方が重要である。類似の施工例写真を見せて安心感を与えたり、コスト比較など相手の質問や疑問に答える工夫をすることだ。また、コストについて「実は重いものを運搬するのでトレーラー運送費、そして大きなクレーン代が余分にかかり、少しコストアップになりますが、工程が短縮されますのでとんとんになりそうです。」と高いものを安くしてもらったという印象を与えることだ。
施主のタイプによって対応は異なるものの、基本をしっかり訓練することで機会損失を防ぎ、利益創出に貢献するものである。

2.現場トラブルの実践知識と対応力
次の事例についてあなたならどんな対処をするだろうか。
| (1) |
労働者が現場で腰を悪くしたので労災申請したいと申し出てきた。自分はその場面を見ていないので(他の職人も知らない)労災にはならないと断った。 |
| (2) |
今年は大雨が続き工程が遅れてしまった。何とか年内に上棟したいと考え、近隣協定で年末年始の休業(12月27日〜1月6日)が決定していたが、クレームがきたら謝罪するつもりで何とか12月28日にコンクリート打設した。 |
(1)は労働安全衛生法の知識を勉強しなければならない。現場責任者100人に質問すると6割が労災にならないと判断した。もし労災申請を断ったら労災隠しの容疑を掛けられてしまうだろう。労災は本人が申請するものでありそれを拒むことはできないのである。
ではどう処理すべきだろうか。結論は行政に任せることである。すなわち、申請書に『○○作業員は確かにこの作業に従事していましたが、腰を悪くした現場は誰も目撃していません。働いていたことだけは事実です』と注釈して行政の対応に任せた方がよいとのことである。この回答は労働基準監督署の監督官のアドバイスである。
(2)はまさにリスク管理の典型である。コンクリートを年内に打設することが近隣の苦情よりも大切であるか、近隣の苦情は多分来ないという読みがあるか、近隣の苦情を抑えられる自信があるか、など自分の経験と責任において判断することになる。リスクを低くするためには、「近隣協定の例外」をつくり、「万一この協定に触れる事が生じた場合は事前に説明いたしますので、許容範囲の中で施工させていただく場合があるかもしれません。」という逃げを打っておくことも大切である。そのためには日頃から近隣への挨拶や信頼される工事現場運営を心掛けることである。
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